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- about a spring 2020 -









■2020年4月7日はここ新潟でも桜が静かに咲き始め、もうすぐ満開かというような時だった。
この花たちの、音のない賑やかさに満ちた時間を僕らは"春の気配"として記憶する。もしくは身体的に、毎年思い出しているのかもしれない。こうした静かに心の中が騒がしくなる時期は特に何があるというわけでもないけれど、どこか落ち着かない気持ちにさせられ正直に言えば得意ではない。
 今から約5年ほど前に現在の住居に引っ越してから、その2年後の春に偶然通りかかった桜並木が気になっている。住居から車で10分も走れば行ける国道から少し外れた場所にあり、桜としてはやや年老いた感じがする、その静かな佇まいになにか惹かれるところがあった。名所ということでもないので人の気配はないし、それから毎年タイミングが合えば定点観測したいと考えるようになった。
 2020年4月7日の午後は早い段階で1つの仕事を終えられたこともあり、日がまだ傾ききらない内に一度今年の桜を覗いておこうかという気になった。桜は6分咲きという感じで花びらも白く若々しさを保持していた。少しの間だったけど桜の言葉に触れたような気になって、満足と言うこともないがどこか満たされたような気にもなった。それはやはり何処か非日常的な時間だった。
 では今日はもう帰ろうと、再度車に乗りなおして運転し、国道の交差点で右折の為に停車していたら後ろから追突されてしまった。誰が悪いという気も起きず、ただ静かな非日常がここにもいよいよやってきた、そんな気がした。そもそも「桜を眺める」ということ自体、何処か利己的な、人間本意のおこがましい事なのかもしれない。自分のおぞましさのようなものが別の形で今ここに現れているのではないか。
 事故自体は大きなものではなく、お互い怪我も見受けられない。車は凹んだが走れるのでとりあえず道沿いのコンビニの駐車場に駐めましょう、とお互いの車を移動したら偶然パトカーが通りかかった。今後の手続き的な部分のアドバイスも警察の方から親切に教えてもらい、ではまずは気をつけて帰りましょうということになった。

 2020年4月25日に修理された車を引き取りに行った。良く晴れており春らしい陽気だった。修理とメンテナンスを終えたこの車内で最初にどのCDを聴こうかと考えたが、『室内楽2011-2015』にした。ここ数年の間、自分の過去作は何処か遠いもののように感じられていた。良い集中の中にないとその意図が読み取れないし、そのような集中力などもはや訪れないのではないかという気さえしたこともあり、しばらく離れていたのだ。
 ところが冒頭の《フロリゲン・ユニット》からアンサンブルの肌理をよく捉えられて聴ける気がし、2011年の当時どのような部分を聴き、どこに挑戦を感じていたかがありありと思い出される感覚があった。こうしてごくたまにでもいいのだがこのように特定の時間を思い出すことができるならば、またいつでもそこを立ち戻る場所として音と時間との対話ができるのではないか、そんな希望めいたものを感じながら帰路に着いた。

2020年4月25日